浜岡原発永久停止裁判 第21回口頭弁論

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浜岡原発永久停止裁判 第21回口頭弁論
2017年7月04日(月)曇り
10:00 浜松市地域情報センターホールに原告や傍聴者が集まり始めた。
10:30 裁判所内の部屋で傍聴抽選。
10:40 原告30席分を含め、傍聴席は満席となる。参加者 60人。
11:00 裁判が開始。
裁判長は上田賀代、右陪審は荒井格、左陪審は安藤巨、
   訴訟代理弁護団計20名の弁護団のうち、今日の参加者は11名
田代博之、大橋昭夫、森下文雄、塩沢忠和、阿部浩基、北村栄、佐野雅則、平野晶規、北上紘生、栗田芙友香、青柳恵仁、
被告側は国と中電で18名。
11:00 裁判長;10次訴訟が提訴された。原告の訴状が出ている。中電から答弁書が出ている。
請求の趣旨は1~9次を含めて言葉の言い回しが違うので、用語の統一を違うのであれば理由を。原告の意見陳述の希望あり。15分以内で許可する。意見陳述を書面で出すことでいいか。
原告;はい。

11:03;小林さん・意見陳述(書面をそのまま掲載)私は静岡市葵区本通6丁目5-2に居住している小林馨です。本日、陳述書に基づき発言します。
私は今年76才になりますが、一生忘れられない思いがあり、この場で話します。昭和20年6月19日深夜に起きたことです。今から72年前、静岡市はB29米軍機約140機による焼夷弾の空襲を受け、中心部はたちまち火の海になりました。一夜で1952人余の方が戦火の犠牲になりました。私はその時3才半でした。母と兄弟2人で安倍川の近くに逃げました。家は全焼、幸いみんな命だけは取りとめました。私は今でも、その時のことは脳裏に残っていて、忘れることができません。
 皆さん、ご存じでしょう。ことわざに“三つ子の魂百までも”。よく昔、親が口癖に言ったものです。子どもが3才くらいの幼児のときに“楽しい思いをしても”そう何時までも覚えてはいません。…でも3才くらいの時に、死ぬか生きるかの境を経験して生き延びた場合、老年になっても、頭から記憶は離れない。私は、人間の記憶とはそういうものだと思います。
今の社会の中で暮らしていて、放射線治療などは医療の現場で使われていますが、原発や核兵器の開発は、人間社会の中で不安と危険の産物だと思います。先の戦争で生き延びてきた私は思います。6年経っても福島第一原発事故で亡くなられた方の家族の悔しさ…、これからもずっと故郷に帰れないで不安な生活をさせられている人たちを思うと、他人ごとではありません。
浜岡原発を否が応でも身近に抱えている私たちは、浜岡原発を再稼働させないことはもちろんのこと、一刻も早く廃炉の方針を決めることだと思います。電力不足にならないようにと、住民は多少不自由であっても節電して頑張っています。今、国・県・市の行政、原発関連事業者に求めていることは、住民の声を聞いて、それに応えて実行することです。 以上

11:06;知久さん・意見陳述(書面をそのまま掲載) 第10次原告の知久昌子です。私は浜松の民間の認可保育園で園長をしています。浜岡原発で福島第一原発と同じような事故が起こった時、子どもたちのいのちと暮らしがどうなるのだろうかと思うと、胸が苦しく、痛くなります。
福島の原発事故直後の5月に第30回総会を迎えた「福島県保育連絡会」という保育団体では、総会の方針として県内の自治体、幼稚園、保育園等へのアンケート調査を行いました。県内から6割を超える自治体、各々100を超える幼稚園、保育園からのたくさんの回答を得て、「2011.3.11とその後の福島の子どもたち」という白書を2012年の11月に発行しています。
そこから見えてくる子どもたちのことをまず伝えます。原発の水素爆発により放出された放射能は、北西の風にのって福島県内全域に降り注ぎました。原発事故でそれまでの暮らしのすべてを失った海側の「浜通り」。情報が何も入ってこない中での避難も想像を超えるすさまじいものでした。避難先での保育園もない中での仮住まいの不自由さ、そして誰もが「ここで生きていていいのか」と自分に問いかけながらの手探りの生活。放射能対策でやれることは何でもやっても、子どもたちは外で遊べない、友だちがいなくなる、ストレスの増加。親は放射能対策で精神的に不安定になる。子どもたちのことを考える親の悩みは深刻でとても語りつくせません。
県外に避難した子どもたちも数えきれません。県内で保育園に通っている子どもたちを保育する職員も、通常の保育以外に、園内外の除染、放射線量の測定、食材のチェック、親とのそのたびごとのさまざまな確認など、気が休まる時がありません。
原発事故から7年目が経過したいま、いまだ故郷に帰ることができない人たちの生活の問題も大変です。未来を描けない心の闇も深刻です。政府は避難解除地域を広げて、帰還を進めていますが、子どもたちを抱える若い世代は帰還の決断ができません。親であれば子どもたちの健康の問題を誰もが心配します。
福島県が当時18才以下の子ども約38万人を対象とした小児甲状腺検査の結果では、2017年6月現在、福島県健康調査「甲状腺検査」実施状況報告では、「悪性、または疑いあり」が188人とされました(2011年15人、2012年56人、2013年42人、2014年52人、2015年19人、2016年4人)。そのうち、すでに手術を終え、甲状腺がんと確定した子どもが150人いました(2011年15人、2012年52人、2013年32人、2014年38人、2015年11人、2016年2人)。(2017.6 より)。
甲状腺がんの問題だけではありません。1986年、ウクライナ共和国のチェルノブイリ原発事故から25年経った2011年4月、「ウクライナ政府報告書~未来のための安全」が事故後発表されました。この報告書は、放射線の影響による病気として、白血病、白内障、小児甲状腺がん、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害、気管支炎を上げています。
特に事故後に生まれた子どもは、1992年と2008年とで比較すると、健康な子どもの割合は25%から6%に減少、一方で慢性疾患は20%から78%に増加していると指摘します。そして、汚染地帯の子どもは体力のない子が増加。体育の授業を受けられない子が多い。甲状腺などの内分泌疾患が48%。骨格の異常が22%。低学年で10分、高学年で5分の授業短縮、学力テストは子どもたちが無理をするので中止。心臓の痛みを訴える子どもが増加などに触れています。
日本で、10年、20年経過した時にどういう健康問題が起こるのか、警鐘を鳴らす重要な報告書だと思います。
子どもたちは、未来を担う日本の宝です。原発事故が起こり、子どもたちが放射能被害を受けた時、地域が危うくなる、社会が危うくなる、日本の未来が危うくなる、そういう国の存立の根底に関わる問題だと思います。浜岡原発の再稼働をしないでください、廃炉に向けての決断をしてくださいと、願わずにはおられません。裁判所として福島原発事故の教訓を生かした、公正な判決を強く求めます。

11:13;村松さん・意見陳述(書面をそのまま掲載)第10次原告で、浜岡原発はいらない浜松の会事務局長の村松幸久です。2011年3月11日の福島第一原発事故が起きた時、30年前に観た青年劇場の「臨界幻想」というお芝居の最後の場面を思い起こしました。
 安全を信じて電力会社に就職した地元青年が白血病で亡くなります。死亡原因に疑問を持つ母親。その周りで暗躍する電力会社の影。札束が飛び交います。最後の場面は原発爆発。真っ先に逃げる電力会社職員。安全は幻想だった。当時、福島原発をモデルに描かれた芝居です。安全は幻想にすぎないことが予言となってしまった。事故後、脚本を書き直した「臨界幻想2011」が話題となりました。
臨界幻想観劇後、30年間行動してこなかった反省と、浜岡原発の存在に、福島原発事故は他人事ではないと強く感じ、たくさんの人たちと「浜岡原発はいらない浜松の会」を立ち上げ、毎週日曜日の午後、浜松駅前で街頭署名にとりくみました。
机を並べると、市民が次々に署名をしていきます。駅前広場に散らばっている参加者の周りにもすぐに人だかりです。「俺みたいなおじさんでは」と心配していた中年男性にも女子高生が群がりビックリです。
6年間、毎週日曜日に続けられてきたのは、この市民の反応の高さにあり、参加者の元気と勇気の源です。多い時には、1時間で362筆、「10秒に1人 」が署名してくれました。これまでに約5万筆が寄せられています。
3・11以降、浜岡原発の危険性を身近に感じた静岡県内の人たちが、東海道沿線に各駅停車で次々と浜岡原発に反対する市民の会をつくり活動しています。
2014年8月に、「浜岡原発の再稼働を許さない静岡県ネットワーク」として県内約50団体が参加し結成されました。全国でも特筆すべき市民の動きです。
毎週日曜日に同じ時間、同じ場所で続ける街頭署名。6年経っても1時間に100筆が寄せられます。「停電しないということは、電気が足りているね」「安全が守られないのに、どうして動かすの?」「子どもや孫に故郷を残したい。」署名に寄せられた共通の願いです、
6年経っても、元の生活にいまだに戻れない福島の現実が、「原発はいらない」という訴えにつながっています。その声は決して風化していません。まさに、「民の声」、自然な願いです。この声にぜひ向き合ってください。

11:16 裁判長;10次訴訟の併合について意見を聞きます。
原告・被告・中電;いいです。
被告・国;併合する必要はない。
裁判長;裁判所としては、これまでの訴訟に併合するとして審議する。裁判官が交代したので弁論更新する。
 書面の確認、中電からは準備書面(10)。陳述は5分程度で。

11:17 中電;準備書面(10)を簡単に説明したい。そのあと、浜岡原発安全性向上対策工事の状況についても報告したい。原告の準備書面(5)(7)(14)(19)に対する反論。原告は新規制基準の問題点を取り上げている。原告は外部電源のSクラスに格上げを主張しているが、被告中電は、非常発電用原子炉に関する新規制基準の考え方に基づいて反論している。直流電源の猶予期間についての原告の主張にも反論している。
11:21裁判長;被告の証拠書証の確認。原告から準備書面(21)(22)。これを陳述したいとのこと。5分程度でお願いしたい。

11:23 原告・栗田弁護士からの説明(準備書面(21)をそのまま掲載)。
本書面では,被告中部電力の準備書面(8)に対して,日本の法体系がIAEA安全基準と整合しないこと,IAEA安全基準が避難計画の実行可能性を原子力事業者に対する規制としていること,避難計画の不備の3点について主張する。
1 日本の法体系がIAEA安全基準と整合しないこと
(1)避難計画の実施可能性,実効性を確認する枠組みがないこと
ア「平成26年6月25日原子力規制委員会記者会見」6頁で示されるとおり,現在の日本の法体系上,避難計画の実施可能性,実効性を確認する枠組みはない 。
 つまり,IAEA安全基準が求めるにもかかわらず,日本の規制は,立地段階で避難計画の実行可能性をチェックしない上に,立地後も敷地外の避難計画の実効性について事業者に対する規制としていない。日本の規制は,IAEA安全基準が随所で求めるほど人々の生命・健康を守るために重要な避難計画の実行可能性,実効性の確保を完全に無視しているのである。

(2)原子炉等規制法の要求
 ア IAEA安全基準だけでなく,原子炉等規制法の要求としても,避難計画の実行可能性・実効性を審査する規定をおかなければならない。
 イ 原子炉設置許可は,許可が出ると同時に,UPZ内の地方公共団体に対し,原子力災害に関する地域防災計画(地域防災計画原子力災害対策編)と広域避難計画の策定を義務付ける制度となっている。そこでは,福島第一原発事故の場合のように,原発事故のみを想定した避難とは異なり,大規模な自然災害と原発事故とが複合した場合をも想起する必要がある。そして,それは,原発施設内だけではなく,原発施設外であっても同様である。
しかしながら,現在の制度下では,仮に,自然的,社会的諸条件から,あらかじめ実効的な避難計画の作成が不可能ないし極めて困難な場合であったとしても,設置許可(変更許可を含む)段階で避難計画の実効性等が原子力規制委員会による審査を経ないまま,UPZ内の地方公共団体は,広域避難計画の策定が義務付けられることになってしまう。
このような制度上の不整合ないし不合理を解消するためには,たとえば,少なくとも,原子炉等規制法43条の3の6第1項3号に基づく原子力事業者の技術的能力に関する審査と同程度の内容をもち,UPZ内の地方公共団体が作成する避難計画の基本枠組みや基本方針などについて設置許可の審査段階で,原子力防災会議等と密接に連携しつつ,原子力規制委員会が避難計画等の実効性やオンサイド対策との整合性等を審査することが必要となる 。

(3)災害対策基本法等は避難計画の実効性を担保していないこと
   被告中部電力は,第5の防護レベルに関する事項については,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法を始めとする関係法令に基づき,国,地方公共団体,原子力事業者等が実効的な避難計画等の策定や検証等を行っており,担保されている旨を主張する。
しかし,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法を始めとする関係法令(具体的な基準は原子力災害対策指針)は,避難計画の実効性を担保するものではない。

ア 事故想定が甘すぎること
(ア)避難計画の前提となる事故想定が明記されていないこと
  避難計画を策定するためには,前提としての事故想定がある。なぜなら,一定の事故想定を前提にしなければ,安定ヨウ素剤の事前配布を要する範囲,備蓄を要する範囲,施設敷地緊急事態が生じたときに避難を実施する範囲,屋内退避を求める範囲,UPZの外側の地域に対する対策の要否,避難先に求められる原発との距離等,すべてにおいて計画を立てることができないからである。
策定された避難計画が合理性・実効性を備えるためには,その前提となった事故想定が合理的であることが不可欠である。過小な事故想定に基づいて避難計画を策定しても,想定を超える事故が発生すれば,大混乱に陥ることは必至だからである。
しかし,原子力災害指針自体が,どのような事故を想定しているのか,明記していない。
(イ)100テラベクレル放出事故を想定していること
  原子力規制委員会が原子力災害指針を策定するに当たり,あるいは,全国の地方自治体の避難計画の策定を支援するにあたり,想定している事故の規模に関して,次の事実が認められる。
 ①原子力規制委員会は,平成25年4月3日までに新規制基準による安全目標として,事故時のセ     
シウム137の放出量が100テラベクレルをこえるような事故の発生頻度を100万炉年に1回程度を超えないように抑制されるべきであるとした 。
②原子力規制委員会は,平成25年6月に策定した「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で,有効性評価の手法として,「セシウム137の放出量が100テラベクレルを下回っていることを確認する。」とした 。
③原子力規制委員会は,関係自治体が地域防災対策を策定するにあたり,リスクに応じた合理的な準備や対応を行うための参考とすることを目的として,事故における放出源からの距離に応じた被ばく線量と予防的防護措置による低減効果について全体的な傾向を捉えるための試算を示したが,このとき想定した事故の規模は,セシウム137の放出量が100テラベクレルというものであった 。
④原子力規制委員会田中俊一委員長は,平成27年5月13日に開催された第189回国会参議院東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会において,山本太郎議員の質問に対し,全国の避難計画が,セシウム137の放出量が100テラベクレルという規模の事故を前提に策定されている旨,そして,100テラベクレルの根拠は,新規制基準では「シビアアクシデントが起こらないような対策を求めている」からである旨回答した 。
⑤福島第一原発事故におけるセシウム137の放出量は,東京電力の試算では,1万テラベクレル(10ペタベクレル)である 。
以上の事実から,原子力規制委員会は,原発周辺自治体に対し,最大でもセシウム137の放出量が100テラベクレルの事故を想定して避難計画を策定するよう支援(指導)していることが判るし,そのことから,原子力災害対策指針自体も,その事故想定を前提に策定されていることが窺える。セシウム137の放出量100テラベクレルの事故は,福島第一原発事故の100分の1の規模の事故である。原子力規制委員会は,新規制基準では,各事業者にシビアアクシデント対策を義務付けたから,最悪でもこの規模の事故に納めることができると主張しているのである。
新規制基準に適合した原子力発電所では,セシウム137の放出量が100テラベクレル以上の事故は起こらないという想定は,極めて甘い。これは,新たな安全神話であるというほかない。 
(ウ)深層防護に違反
避難計画の前提とされているこの事故想定は,深層防護の考え方に根本的に違反しているということである。セシウム137の放出量100テラベクレル以上の事故を想定しなくてもいいという判断は,新規制基準で定めたシビアアクシデント対策(第4層)が全てうまく機能することが前提である。
しかし,前段を否定するのが深層防護の考え方なのである。シビアアクシデント対策が失敗する場合を想定しなければならないし,その場合であっても,適切な避難計画によって住民を防護しなければならないのである。その場合に想定すべき事故の規模は,セシウム137の放出量100テラベクレルに収まるはずはない。近藤駿介原子力委員会委員長の「最悪のシナリオ」を前提にすれば,福島第一原発事故と同等の事故を想定しても,まだ足りないというべきである。
(エ)小括
  以上のような過小な事故想定に基づいて避難計画を策定しても,想定を超える事故が発生すれば,大混乱に陥ることは必至である。

イ 段階的避難の非現実性
(ア)一斉避難を想定していないという問題
 ⅰ SPEEDI(スピーディ)
   旧原子力安全委員会が定めてきた「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)では,
SPEEDIを用いた予測的手法に基づいて避難方法に関する意思決定を行うこととしてきた 。
しかし,原子力規制委員会は,原子力災害対策指針を改訂し,SPEEDIの活用を放棄した。UPZ圏内の住民は,屋内退避をさせ,モニタリングによる実測値に基づいて避難させるというのである。
 ⅱ UPZ圏内の住民
   原子力災害対策指針によれば,UPZ圏内の住民は,どんな場合でも即時に避難することは予定されておらず,まず屋内退避し,地上1メートルの空間線量が500μSv/時になれば(OIL1)数時間内に,20μSv/時(OIL2)になれば1週間内に一時移転を実施すると定められ,UPZ外の住民も同様の基準で,避難ないし一時移転を実施することとされている 。ICRPなどにいう平常時の線量限度(1mSv/年)は,0.23μSv/時程度であるから,平常時の線量限度のおよそ100倍になったら1週間内に一時移転ができ,5000倍になったら数時間内に避難ができる。20μSv/時は,175.2Sv/年に,500μSv/時は,4380mSv/年にそれぞれ相当する。しかも,上記線量値が計測されてから避難が開始されるまでに相当の時間が経過するから,その間に線量値が大幅に上がることも想定できる。さらに,避難途中における被ばくも考慮しなければならない。
 ⅲ UPZ圏外の住民
   UPZ外で居住している者もいる。SPEEDIを使用しない以上,UPZ外は,実測によって高線量が確認されて初めて何らかの対策が検討されることになる。高線量になってから高線量が確認されるまでも,相当のタイムラグを覚悟しなければならない。高線量が確認されるまで,住民らは被ばくを続けることになる。
 ⅳ 多量の被ばくを容認する原子力災害対策指針
   原子力災害指針が,PAZ内の住民は,全面的緊急事態で「避難や安定ヨウ素剤服用等の予防的防護措置を講じなければならない」とする 一方,UPZの住民は屋内退避させることとしたのは,「段階的避難」の要請,すなわち,PAZとUPZの双方の住民を同時に避難させたのでは,交通がマヒしてスムーズな避難ができなくなるからである。スムーズな避難の実現のために,UPZ及びその外の住民が多量の被ばくをしてもやむを得ないというのが,原子力災害指針の考え方なのである。
 ⅴ 複合災害時の屋内退避
   地震と原発事故との複合災害の場合は,屋内退避自体が困難になるため,UPZ及びその外側の住民の被ばくは極めて深刻になる。現実には,UPZ及びその外側の住民の中には,避難ないし一時移転の指示が出る前に避難を始める人々が多数出るだろう。被ばくを避けたいというのは,人として当然の思いであり,避難指示が出る前に避難しようとする人たちを止めることができない。
その場合,大渋滞等が発生し,大混乱が生じることは避けられない。支援者が要支援者の元へたどりつくことも困難となると考えられる。入院患者らを避難させるバスが病院にたどりつくことも,たどりついた場合に病院から避難させることも困難となり,福島第一原発事故における双葉病院事件の再来の恐れもある。
 ⅵ 小括
   以上のとおり,原子力災害対策指針の定める段階的避難は,非現実的であり,実効性のないものである。

ウ PPAの放棄
(ア)放射性プルームの危険性
  原発事故により放射性物質が環境中に放出されると,放射性物質が空気中で雲のように塊となって流れて移動する場合がある。この塊を放射性プルームという。放射性プルームが上空を通過すると,この中の放射性物質から出される放射線により外部被ばくする。さらに,外部被ばくだけでなく,呼吸により,また,放射性物質に汚染された飲料水や食物を経口摂取することにより体内に取り込んで内部被ばくすることもある。
  福島第一原発事故では放射性プルームにより原発から30kmから50km離れたところに位置する飯舘村が,放射性物質により汚染された。すなわち,2011年3月15日朝に2号機の格納容器が大きく破損して大量の放射性物質が放出され始めた後,同日12時頃,風向きが南南東に変化した。そのため,2号機建屋から放出された放射性物質の雲(プルーム)は福島第一原発から北北西方向の陸側,大熊町,双葉町,浪江町,飯舘村の上空へ流れていった。この放射性物質は,同日午後11時頃より始まった降雨のため地表に降下し,これらの地域に高濃度汚染地帯を形成した。
特に飯舘村の村民は,避難の必要性を伝えられなかったことから,福島第一原発事故の直接的な影響を受けることはないものと考えて,雨(飯舘村では雪)に放射性物質が付着していることなど考えもしなかった。翌朝には,放射性物質の付着した雪で雪遊びをする子供たちもいたという。飯舘村が計画的避難区域とされたのは事故から1か月以上も経った4月22日であったため,飯舘村民は大量の被ばくを強いられてしまった。その後,飯舘村には全村避難指示が出された。
  このように放射性プルームに対して十分な防護措置が取れるかという問題は,住民の生命身体の安全を考える上で重要な点である。
(イ)PPAの検討
  原子力災害対策指針は,原子力災害対策特別措置法第6条の2第1項に基づき,2012年10月31日に,原子力規制委員会によって定められたものである(2013年9月5日第三次改正)。この指針の目的は,国民の生命及び身体の安全を確保することが最も重要であるという観点から,緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものとすることにある。そして,指針は,「UPZ外においても,プルーム通過時には放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被ばく等の影響もあることが想定される。つまり,UPZの目安である30kmの範囲外であっても,その周辺を中心に防護措置が必要となる場合がある。…(略)…また,プルームについては,空間放射線量率の測定だけでは通過時しか把握できず,その到達以前に防護措置を講じることは困難である。…(略)…以上を踏まえて,PPAの具体的な範囲及び必要とされる防護措置の実施の判断の考え方については,今後,原子力規制委員会において,国際的議論の経過を踏まえつつ検討し,本指針に記載する。」とする 。
(ウ)PPAの放棄
  ところが,2015年4月22日になされた原子力災害指針の改定により,UPZ圏外では,事前には防護措置は定められず,事故が起こってから対策がたてられることになったのである。無責任な改定である。
これでは,福島第一原発事故における飯舘村のように,ひとたび原発事故が起きれば,高線量に汚染されていながら,その情報も与えられず,何の対策もとられず長期間にわたって放置される人たちが発生する恐れが強い。
エ 避難訓練
    いくつかの地域で実施された避難訓練では,有意な検証となるほどの参加人数が集まっておらず,海上を船舶で避難する訓練を行うはずが当日の悪天候により中止されるなど,避難計画の実効性が無いことを示す事例が多発している。
オ 結論
  以上のとおり,現行法令(原子力災害対策指針)は,甘すぎる事故想定をし,多量の被ばくを容認し,地震時に屋内退避を求め,プルームに対する防護措置を放棄するという極めて不合理なものであり,避難計画の実効性を担保するものではない。

2 IAEA安全基準が,避難計画の実行可能性,実効性を原子力事業者に対する規制と規定していること
(1)IAEA安全基準の立地評価が,避難計画の実行可能性を原子力事業者に対する規制としていること
  ア IAEA安全基準によれば,立地評価の目的は,「事故による放射性物質放出の放射線影響から公衆と環境を防護すること」にある 。
そして,この目的を達するために考慮しなければならない事項は,「放出された放射性物質の人及び環境への移行に影響を及ぼすような立地地点及びその周辺環境の特徴」,及び,「外部領域の人口密度,人口分布及びその他の特徴。ただし,これは,緊急時対策の実行可能性及び個人と集団に対するリスク評価の必要性に影響を与える限りにおいてである」と規定されている 。
(2)避難計画の実効性が原子力事業者に対する規制であること
  ア IAEA安全基準は,原子力事業者に対して,「緊急時対応計画を策定する責任及び緊急時準備と緊急時のための取り決めを整える責任」を負わせることを求める(「IAEA Safety Standards Governmental, Legal and Regulatory Framework for Safety General Safety Requirements No. GSR Part 1 (Rev. 1)」(安全要件「政府,法律及び規制の安全に対する枠組み」) (以下略)2.20.)。
具体的には,原子力事業者は,原子力又は放射線の緊急時に敷地内のすべての人員の保護と安全を確保するための取り決めを確立しなければならない(5.41.)。そして,緊急事態を速やかに分類し,事前に計画された敷地内の対応を開始し,敷地外対応のために情報を提供する取り決めを確立することも求められる(5.17.)。
これだけを見ると,原子力事業者は敷地外の避難計画に関与しないように思える。
  イ しかし,IAEAは,安全評価について,「全ての施設と活動に対する安全要件への遵守(及びそれによる基本安全原則の適用)を評価する手段として行われるものであり,また,安全を確実にするために必要な措置を決定するもの」(「IAEA Safety Standards Safety Assessment for Facilities and Activities General Safety Requirements No. GSR Part 4 (Rev. 1)」(「施設と活動に対する安全評価」) (以下略)1.2.)とし,安全評価の内容には「万一事故が発生しても放射線の影響を緩和できるかどうかも又,決定される。」 (4.9.)と規定するとおり,避難計画の実効性が含まれている。
    この安全評価は,設計段階から閉鎖段階までの間に定期的に行うことが求められ(5.2.),その評価結果は許認可プロセスの一環として規制当局に提出される(1.2.)。安全評価に責任を負うのは,原子力事業者である(9頁「Requirement 2: Scope of the safety assessment」)。
    避難計画に関する評価対象として,まず,敷地特性がある(15頁「Requirement 8: Assessment of site characteristics」)。具体的には,「緊急時計画を策定するための必要条件に関連」するものとして「敷地周辺の人口分布及びその特性」を「包含しなければならない」(4.22.⒞)。つまり,緊急時計画(避難計画)を策定するために,原発周辺において,人々が地域的にどのように分布しているのか,及び,人々の構成として年齢,性別,障害・病気の有無などを評価しなければならない。
    次に,「放射線防護のための対策」を評価しなければならない(16頁「Requirement 9: Assessment of the provisions for radiation protection」)。具体的には「公衆の放射線被ばくを関連する線量限度以内に管理するために十分な対策が取られているかどうかが決定され,個人線量の大きさ,被ばく者の数及び被ばくの可能性が,経済的,社会的要素を考慮に入れて,合理的に達成可能な限り最小限になるように防護が最適化されているかどうかが決定されなければならない」(4.25.)。つまり,安全評価は,避難計画を含む放射線防護のための対策を評価することによって,放射線防護が最適かされているかをチェックする。
このように安全評価は,万一事故が発生しても最適の防護を受けられるか否か,つまり避難計画の実効性を評価するものである。規制当局は,その評価結果を許認可等の一環として審査することで,原子力事業者を規制するのである。
 ウ 「原子力発電所の安全:設計」について
    被告中部電力は,原子力規制委員会が,「IAEA安全基準は,第1層から第5層に係る全ての対応を設置許可基準規則等の原子力事業者に対する規制に規定することが求められているわけではないと解釈している旨主張する。
    ここで,原子力規制委員会は,IAEA安全基準の「要件7」,「原子力発電所の設計は,深層防護を取り入れなければならない」 という規定について,このような解釈をしていると考えられる。
    「要件7」の趣旨を検討すると,設計は上述の深層防護の各層の内容をみると明らかなとおり複数の防護階層の要件となっていることから,一つの分野でありながら複数の防護階層を形成する重要な役割を担う設計において,複数の防護階層を備えなければならない旨を注意的に規定したものであると考えられる。
    つまり,「要件7」は,5つの防護階層を前提とした規定であり,原子力規制委員会の主張するような5つの防護階層のいずれかを原子力事業者に対する規制としなくてもよいとする規定ではない。
    したがって,「避難計画に関する事項を含む緊急事態に対する準備と対応について原子力事業者に対する規制とすることは求められていない」という原子力規制委員会の見解は誤りである。

(3)結論
    よって,IAEA安全基準は,避難計画の実行可能性,実効性を原子力事業者に対する規制と規定している。

3 避難計画の不備
(1)地域防災計画の実行可能性・実効性がないこと
  静岡県作成の避難計画が,原子力規制委員会の見解に基づくものである以上,1(3)で前述したとおり,甘い事故想定,非現実的な段階的非難,PPAの放棄という点で,避難計画に実行可能性・実効性はない。
(2)静岡県作成の避難計画の不備
  さらに,静岡県危機管理部原子力安全対策課の公開する「浜岡地域原子力災害広域避難計画の策定状況」に基づく避難計画が机上の空論であることは,原告準備書面(15)で述べたとおりである。
(3)自治体職員の安全衛生に関する問題点
ア 安定ヨウ素剤の配布
(ア)平成28年3月策定,平成29年3月修正の「浜岡地域原子力災害広域避難計画」 (以下「本件避難計画」という)では,安定ヨウ素剤の配布について,以下のように定めている。
「PAZ圏内については,事前に安定ヨウ素剤を配布しておく。全面緊急事態に至った時点で,国の指示に基づき,又は独自の判断で,直ちに安定ヨウ素剤を服用するよう住民に指示するものとする。ただし,安定ヨウ素剤を服用できない者,3歳未満の乳幼児及び当該乳幼児の保護者等については,安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において,優先的に避難するものとする。UPZ圏内については,全面緊急事態に至った後(・)に,発電所の状況や緊急時モニタリング結果等に応じて,避難や一時移転等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について,原子力規制委員会が必要性を判断するため,県及び関係市町は,国の指示に基づき,又は独自の判断により,安定ヨウ素剤を配布(・・)・服用するよう指示するものとする」
(イ)つまり,本件避難計画はUPZ圏内においては,全面緊急事態に至った後に,原子力規制委員会の必要性判断を待って,自治体職員が安定ヨウ素剤を住民に配布しに行くと定めているのである。
  全面緊急事態となれば,公衆への放射線による影響可能性が高い状況であるところ,その中を,自治体職員が避難所や施設を回って住民全員に安定ヨウ素剤を配布しに行くのであれば,自治体職員らの身体に重大な影響を及ぼすこととなる。
(ウ)また,住民の中には,指示を待たずに各自で避難を開始する者が多く居るであろうことや,病気・怪我等の事情で避難所に向かえない者もいるであろうことも考えられ,住民ら全員が,避難場所において安定ヨウ素剤の配布を待機しているなどということはあり得ない。だとすれば,全面緊急事態に至った後,自治体職員が安定ヨウ素剤を住民に配布することの実行性は乏しい。この意味でも,本件避難計画には不備があると言わざるを得ない。
 さらに,原子力規制庁 原子力災害対策・核物質防護課による「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」 によれば,「安定ヨウ素剤の配布に当たって粉末剤を利用する場合には,集合場所や避難所等において薬剤師並びに訓練を受けた医療関係者及び地方公共団体職員(以下「薬剤師等」という。)が粉末剤から液状の安定ヨウ素剤を調製できる体制を整備する必要がある」とされている。しかし,安定ヨウ素剤の服用は,放射性ヨウ素に曝露する24時間前に行えば90%以上の抑制効果があるが,放射性ヨウ素に曝露した8時間後の服用では40%の抑制効果,さらに,曝露後24時間後の服用ではたった7%の抑制効果しかなくなり,迅速な服用が求められる。
  安定ヨウ素剤の調製及び副作用の有無を踏まえた全員への配布が,安定ヨウ素剤の服用により抑制効果が十分に得られる時期に,迅速に行われることは極めて困難である。
イ バスによる避難
   本件避難計画では,「県及び避難元市町は,・・・バス等の避難手段の確保に努め,一時集合場所等必要な箇所へ手配する」と記載されている。
   これは,住民を避難させるために,自分は避難せずに一時集合場所等で避難住民を待機し,避難先へ送り届けるという職務を課せられる自治体職員がいるということである。
ウ 本件避難計画は,避難しなければならない危険な状況下において,自治体職員に対して,安定ヨウ素剤を住民全員に配布したり,住民をバスに乗せて避難させたりすることを要請しているが,高線量下での作業を強いることになり,労働安全衛生法や労働安全施行令,電離放射線障害防止規則に反することは明らかである。 
(4)よって,静岡県の防災計画に基づく本県避難計画は,実効性のなさ,自治体職員の安全衛生への配慮がなされていない点からも,不備があることは明白である。
以上

11:28 原告・青柳弁護士からの説明(準備書面(22)をそのまま掲載)。
本書面は、平成29年3月6日提出の被告準備書面(9)、すなわち被告中部電力株式会社(以下被告
中部電力という)が浜岡原子力発電所をはじめとする我が国の原子力発電所におけるテロリズム等への対策は万全であり、各法や規則を遵守するものであり、安全であると主張に対し、その主張の欠陥を示すものである。
第1 上記書面における被告の主張
被告は、上記書面において、原子力発電所におけるテロリズム等の対策につき、被告中部電力が、各種法令に従って対策を行っており、対策は十分であると主張する。
第2 原告の再反論
しかしながら、上記書面にて主張している各対策は、十分なものとは到底言えない。また、原告が以前主張した、航空機によるテロ攻撃の危険性は、数あるテロ手段のなかの一つの具体例を挙げたにすぎない。

1 「標的」としての原子力発電所
  現在まで、原子力発電所を標的としたテロ攻撃は、計画で終わったものも含め、世界中で数多く存在している(甲H42、甲H43)。
その理由は、原子力発電所そのものが危険な施設であり、その危険性を利用すれば、テロリストだけの攻撃以上に市民を殺害、負傷させ、世論により大きな影響を与えることが容易に可能であるためである。これは他国からの軍事攻撃にも当てはまる。原子力発電所は、市民や国にダメージを与えるのに「とても効率のいい」施設なのである。
それらテロ攻撃や軍事攻撃の方法として、例として挙げるだけでも以下のものが考えられる。そして国及び原子力発電所を管理する事業者はその攻撃を防ぐための万全の対策を講じることが当然に要求される。
なお、これに備え、静岡県は平成27年3月制定の「静岡県国民保護計画」(甲H44)内でも浜岡原子力発電所のテロ攻撃等のリスクを想定している。

2 不法侵入からの攻撃のリスク
被告中部電力は、侵入を防止するための設備、危険物等の持ち込みを防止するための設備等を備えているため、十分であるとする(上記書面2頁)。
  しかしながら、それら設備が破壊されることや設備管理者の殺害、それら設備の乗っ取りの可能性がある。
  米国では上記のような不法侵入者に対し、各原発に150人以上の武装した戦闘員が常時配置され、時として施設内で戦闘訓練を行うことにより、万全を期しているとされているが 、我が国ではそのような警備はなされておらず、また法規上も不可能である。

3 弾道ミサイル等で攻撃をうけるリスク
原告らは、準備書面(1)59頁等で、航空機衝突によるテロ攻撃への対策がとられていないことを主張したが、これは具体例の一つにすぎない。
テロ攻撃と同様、他国による軍事攻撃への対策も勿論必要となる。
我が国の周辺国では大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射型弾道ミサイルを保有する国もある。
またそれらミサイルの弾頭(ペイロード)には、高性能爆薬の他、核物質、生物兵器及び化学兵器を搭載することも可能と言われている。
これらが、浜岡原子力発電所をはじめとする各地の原子力発電所を標的とする可能性は、福島原子力発電所事故による広範な地域の汚染や甚大な経済的損害をみれば高いものと言わざるをえない。
  これらの弾道ミサイルが原子力発電所に直撃した場合、その被害は航空機衝突の比ではない。
  また、核物質、生物兵器及び化学兵器が搭載された場合には、爆薬による破壊ではなく、着弾点周囲の市民の殺害が目的となる。
  これに対し被告中部電力は、これらの対策は国が主体となって行うこと及び国民保護法に基づき原子力事業者は必要な措置として災害発生の報告、原子力防災要員の派遣、資機材の貸与及び原子炉施設、核燃料物質の移動等を実施すると主張している。
  しかしながら、上記のような攻撃があった場合、被告中部電力がこれらの「必要な措置」を行うことができるのであろうか。
  高性能爆薬による、発電所施設内の広範な施設破壊や、生物・化学兵器による汚染により発電所に接近することすらできない可能性が高い。

 4 原子力発電所職員の加担のリスク
どんなに堅牢な防衛手段を用意しても、設備構造に熟知した内部の人間による破壊活動の前には水泡に帰す。
米国では、原子力発電所職員による破壊を防ぐため、薬物中毒やアルコール中毒の検査及び身元調査も行われている 。
しかしながら、我が国ではそのような調査は実施することすらできない。
我が国では結果として米国のような対策を行うことが不可能なのである。

5 「安全目標」への考慮欠如
平成25年4月10日付で原子力規制委員会により、「安全目標」に関する決定がなされている。
この「安全目標」とは、原子力発電所を利用することに伴うリスクを具体的に定めたものを指す。原子力規制委員会や事業者が目指すべき目標でもある。
この決定によれば、我が国の安全目標は、「福島第一原発事故を踏まえ、 発電用原子炉については、事故時のセシウム13の放出量が100TBqを超えるような事故の発生頻度は、100万炉年に1 回程度を超えないように抑制されるべき(テロ等によるものを除く)。」とされている(甲H45、H46)。
文中最後の括弧書きでテロ等の予測を排除しており、原子力規制委員会や事業者が目指す「安全目標」そのものにテロ攻撃等の可能性を考慮していないのである。

6 脆弱な重要設備の存在
原子力発電所は、原子炉だけでは正常に機能しない。取水塔や外部電源装置といった付随する各設備が必要不可欠である。
これら設備は、例えば耐衝撃性・耐爆性の高いコンクリートやその他構造的に攻撃に対して堅牢なものとは言い難い。
これら設備に対して遠距離からの携帯型ミサイルによる攻撃、武装・爆装したドローンによる攻撃等により機能が喪失し、結果として原子炉が危険な状態に置かれてしまう。
このように、原子炉や核燃料保管施設以外についても、テロ攻撃等に対する堅牢性が当然に要求されるべきである。

第3 まとめ
以上のとおり、平成29年3月6日提出の被告準備書面(9)に対しては、被告中部電力の主張は、浜岡原子力発電所がテロ攻撃等に対して安全であることを裏付けるものではない。
また、被告中部電力が遵守するという各規則の根幹にあるといえる「安全目標」そのものが、テロ等の攻撃に対して不十分なのである。
よって、浜岡原子力発電所は、未だテロ攻撃等に対して脆弱な原子力発電所であり、極めて危険な存在なのである。
以上

11:35 裁判長;証拠書類の提出の確認。浜岡原発の工事の進捗状況について、被告中電、お願いします。
被告・中電;浜岡原発の安全性向上対策工事は、3号機、5号機については3月以降の追加工事はなし。4号機は現在も着実に進めている。県と御前崎市の工事の直接の確認を受けた。モニタリング電源強化についての結果はHPで公表している。新規制基準の適合審査については、審査を受けている。主に地質の構造について、3/27、28に原子力規制委員会の現地調査が行われた。
11:38 裁判長;これからの主張について。
原告;補充の書面を出したい。
被告・中電;原告の書面に対応する主張を準備する。
裁判長;被告・国は変わりないか、
被告・国;はい。
裁判長;原告・被告の書面の準備を。工事の進捗状況の報告もお願いしたい。
    次回は、12月11日(月)11:00~ 一号法廷でとする。12/4までに書面の提出を。
                                       11:41終了

11:50 地域情報センターで報告集会
司会・高柳昌子;司会の高柳です。代表の林先生、お願いします。
林;各弁護士からの陳述、IAEAのことを取り上げていた。原告の陳述もあった。

11:53 大橋弁護士 第9次原告まで663人、今回の10次原告が53人、合計716人になった。原告1000名を目標にまず800名をめざそう。裁判所も福島原発事故当時に比べて意識が薄れている。反動の波が各地の判決に現れている。しかし福島の原発事故の恐ろしさを考えれば、一時的なものだと思う。その恐ろしさを多くの県民に訴えていこう。再選された県知事も浜岡原発の再稼働については同意しないと。今日の原告3人の陳述は、いい内容だった。裁判長に届いていることを確信している。

11:55 司会;今日陳述された2人の弁護士からお願いします。
栗田弁護士;今日の発言は、日本の法体系がIAEAの安全基準に整合していないこと、自治体職員の安全衛生のことも述べた。国の事故想定が甘いことを指摘した。
青柳弁護士;補足を。準備書面ではテロ攻撃を受けた時のことを取り上げた。中電からは法令に基づいてやっているという主張はあるが、実際それで防げるのかという点での主張が被告にはできていない。
 北朝鮮のミサイルが今朝もあったが。規制委員会の安全目標というものに「テロ等によるものを除く」と書いてある。テロ対策をしていないに等しい。

12:00 司会;名古屋の北村弁護士、全国の様子をお願いします。
北村弁護士:全国的にあまり良くない、ひどい判決が続いている。伊方原発の広島地裁に判決、上の裁判所に従えと、こんなことを言うのかという判決。それが現実。3.11の前に戻った。我々は、新たな陳述書を用意したり、かなり理論的に裁判所を押しているが、とんでもない論理で判決を出している。世論の盛り上がりを。
私は、名古屋で老朽原発の裁判、高浜1、2号機と、美浜3号機の40年以上を超えた原発、規制委員会が合格させたということで、裁判に訴えた。今日も10次原告の併合を国は反対したが、我々の裁判でも、併合にならなかった。一カ月半に一回、別々に裁判を行うということに。裁判所も、国も、誰も得をしないのに、我々の力を削ごうとする。しかし、我々は頑張っていきたい。

12:08 意見陳述した3人の方、用事で帰られた方もいますが、感想をどうぞ。
小林さん;初めて陳述した。3才半で戦災にあった。私より若い方は戦争体験がないと思いますが、原発の問題と合いつながることだと。若い人に伝えていかなくてはと、息子や孫に話をしている。今日は話をさせてもらい、ありがとうございました。
村松さん;浜岡原発はいらない浜松の村松幸久です。今日、私が言いたかったことは、2011年3月11日の福島第一原発事故が起きる前から、原発は安全ではないのだと、ずっと指摘されていたことだ。福島原発をモデルにした芝居さえできていた。その芝居が残念ながら予言をしてしまった。そういうことを二度と繰り返してはいけないと、3/11以降、原発はいらないという声が全国で広がり、特に静岡県では、浜岡原発があるために、まさに各駅停車で、湖西から熱海・伊東まで、伊豆半島まで、いろんな地域で、近くでは、湖西の会、浜松の会、磐田の会など、浜松では、北区や天竜区や浜北区と、それぞれの地域で声を上げている。決して風化はしていない。ところが、マスコミ、国、中電は、原発はいらないという声が風化をしていると。持って行こうとしている。裁判所も。しかし原発はいらないという声が根強くある。日々の活動の中で感じていることを伝えたかった。その思いは皆さんも共通していると思います。今日はありがとうございました。
12:12 司会;質問なり、意見はどうですか。
乗松;法廷に入る時のチェックの目的は何か?と聞くと、原告かどうかのチェックだと言う。それだけが目的かと聞くと、そうですと。これからも、名前の確認だと言われれば、闘いの位置づけで、目的は何か、やることの必要性はと、それぞれ思っていることを、言い続けたい。
北村弁護士;名古屋では、我々にチェックを求めてきたので、裁判所でやれと言ってチェックしている。

質問;中電側の反論の中身はどういうものか。
12:16阿部弁護士;中電は口頭で2点反論した。1点目は、外部電源に対する耐震強度はSクラスにすべきではないかという原告の主張に対して、外部電源はSクラスでなくてもいいのだと。他の所で十分対処するからそこまでは必要ないと主張した。外部電源の喪失は福島第一原発事故で大きなきっかけになったものだが、そこまでは必要ないと。2点目は、原告側が、直流交流電源設備で、5年間の猶予期間の間に行えばいいということは問題ではないかと主張したら、猶予期間の間に行うことは珍しいことではないと開き直った主張をした。他にもあったが、口頭で説明したのはその2点。中電の準備書面(10)は、原告の主張の反論だが、その反論のほとんどは規制委員会が昨年8/24付けで出した「実用原子炉の規制基準の考え方」。規制委員会が出したのは、全国の原発裁判で原告が色々なことを言うので、裁判対策として作ったもの。それに基づいて中電が主張するというもの。全国各地の裁判で使われている。それに対する総括的反論は全国弁護団でほぼ完成している。それを元に今回反論している。完成したものは、できれば証拠として提出していく。
12:20 林代表:岩手、宮城の内部地震、記録は4000ガルを超えている。最近の新潟中越地震の3000ガルを超えている。それが2号機、5号機で記録されている。規制委員会は4000ガルを超えるものは例外的だと、原発審査では対象外というが、そうではなくなってきたのではないか。
12:23 司会;最近長野県とか、北海道とか、熊本で地震が起き始めている。日本全体で地震が多い国だということを考えていかないと。中日新聞では、島崎さんの話も出ているが、原発について考えを深めていければと思う。
12:24林代表;準備書面(7)高浜原発3号機4号機仮処分大阪高裁徹底批判という文書がある。
司会;今の準備書面(7)の資料があと2部あるので、どうぞ。それでは終わりにします。
12:25終了
                                      (文責;長坂)


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浜岡原発永久停止裁判 第21回口頭弁論
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