浜岡原発永久停止裁判 第19回口頭弁論

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2016年11月14日(月)曇り 一時雨
10:00 浜松市地域情報センターホールに原告や傍聴者が集まり始めた。
10:30 裁判所内の部屋で傍聴抽選。
10:40 原告30席分を含め、傍聴席は満席となる。参加者 70人。
11:00 裁判が開始。
裁判長は上田賀代、右陪審は本松智、左陪審は足立堅太、
   訴訟代理弁護団計20名の弁護団のうち、今日の参加者は14名
田代博之、大橋昭夫、森下文雄、塩沢忠和、杉山繁二郎、阿部浩基、北村栄、
佐野雅則、平野晶規、加茂大樹、山形祐生、北上紘生、栗田芙友香、青柳恵仁、
被告側は国と中電で19名。

11:00 裁判長;書面の確認。原告から意見陳述がある。2名の方、お願いします。原稿の提出を。
原告・中村明 (陳述書原稿を以下に掲載)
   私は静岡県立大学名誉教授の中村明です。専攻は細胞遺伝学ですが、放射線被爆と遺伝との関
係について陳述します。
   物事にはメリットとデメリットがある。メリットがデメリットを超えるとき有効である。

Ⅰ.原子力発電のメリット
産業革命ではそれまでの人間の食べ物から得たエネルギーを労働エネルギーとしていたのに対し、石炭・石油など食料でないものからの
エネルギーが労働エネルギーとして使われ、それまでと比較にならない生産力を獲得したと共に、人間のエネルギー獲得に変わる効果をもたらし、余力を生んだため、世界人口は60億人を超え人口増加にも至った。生物の個体数は食べ物の量に比例するという原理どおりであり、余力は科学発展、文化発展に寄与した。
 第3次産業革命とも言われる原子力によるエネルギー供給は、石油・石炭から得られるエネルギーと比較できないほど効率よいエネルギー獲得手段となり、現代工業生産を更に助長する効果が期待されると言われている。

Ⅱ.原子力発電のデメリット(人類に対する観点より)
 ところで、石油・石炭が生んだ公害に比べ、これまた大きな危険性のある放射線を伴うのが最大の脅威である。もし想定外の事故の発生を考えた時、自動車事故、飛行機事故でもそうであるように、事故の頻度を少なくすることはできても、これをゼロにはできないのであり、事故を想定せざるを得ない。そして故障すれば停止するのではなく、暴走するのである。放射線量が少なければ、自然放射線、医療用X線で見るように、DNA損傷は生体の持つ修復作用で修復できるが、原発事故で起きる放射線放出量はその比ではなく、修復は及ばず、即死又は生き延びても、受けた遺伝的障害は、その個人を超え、突然変異として末永く、永久にその生物を変えてしまう。
 有名なノーベル賞受賞のモーガンらによる遺伝学に使われたショウジョウバエの突然変異形質は、放射線被爆により得られた最初の発見である。そして1900年初頭に作られたこれらの変異系統は、人間に換算すれば約12万年以上を経過しても変化せずに現在に至っている。更に、このような変異個体として生まれることさえできない致死突然変異は、産児個体数の減少として表れる。現にチェルノブイリ事故の調査では、産児数の減少が認められ、二代三代を経過した時が危惧される。放射線は生物体を作る有機結合を破壊し、生命体と共存できない。なお、元凶である放射性物質の放射能半減期は元素によっては億年という単位のものもあり、不滅に近い。しかも放射能を打ち消す技術もない。生命体は本来、二分すれば、生殖質と体細胞に分けられ、生殖質は世代を超えて連続しており、体細胞は毎代、生殖質からの再生体である。放射線の障害が、がん、白血病、甲状腺腫など個体レベルでの障害では、その個体限りであり、その症状は直ちに現れるが、生殖質にまで及べば、その子孫に永久に障害が及び、ヘテロ型の障害が多いから表面に現れず、代を経てその遺伝子が重複した時、すなわち、ホモ化した時に表現される。それが何代後に現れるか、その頻度もその交雑状態で異なる。そしてその障害が致命的な場合には、発生することもできず、可視突然変異でない。致死遺伝子となり目に触れることもなく失われる。さらに突然変異遺伝子の頻度は低いから、これがホモ化して淘汰される可能性も低く、その頻度が小さいほど、人間集団のような大集団では淘汰されにくく、人間集団には末永くそして広がっていく可能性がある。
 言い換えれば、放射線により起きた突然変異は消えることなく人間集団に温存され、何時顕在化するか分からぬ爆弾を抱えているようなものである。このようなことがハーディワインベルクの法則と言われるものである。

(生態学的観点)
 今まで人類を中心に考えてきたが、福島で野生の蝶に出現した突然変異的変化が昨年に続き今年も出たという報道は、その突然変異遺伝子が野生の蝶に分布してしまっている証拠である。高等動物である人間は、宇宙全体から見れば奇跡的環境に恵まれた存在の生物である。地球上の諸々の生物は種間の相互扶助で生存が可能であり、自然生態系の破壊は全生物の致命的破壊となる。

(要約)
 事故による障害は、体細胞のほか生殖細胞にも起きるということが、普通の障害と大きく異なり、生殖細胞の遺伝子障害は本人には自覚症状はなく、痛さも苦痛も熱が出ることもなく、外観的の障害もなく、ヘテロ状態で人間集団に潜伏、蔓延しても気が付かず、これがホモ化した時に顕性化し異常が表面化する。一過性ではなく、終わりがない。字の示すように、何の前触れもなく、突然変異は突然に出現するのである。その時期、頻度はその交雑状態により一定ではない。
 地球上の生物には、わずかな修復作用以外、放射線に対する感覚器官も、適用性、修復能力もないのである。ほとんどの場合、変異形質は異常形質であり、進化的変異はあまり期待できない。

11:12原告・桜井建男(陳述書原稿を以下に掲載)
まず私的なことを述べます。静岡市に住む桜井です。私の祖父は旧浜岡町の出身で、後に北海道の開拓に入りましたが、旧浜岡町には一子を残したため、現在も従兄妹、親類縁者が多数暮らしています。その浜岡に原発が造られて40年経る中で実感することは、単に時の移り変わりだけでなく、そこに住む人々の考えや意識の変化、とりわけ原発に対する変わり方についてです。
 原発に対して概ね容認する人々が多かったのが、2011年3・11以降、それが大きく変わったということです。私も静岡に移住して45年になり、浜岡原発建設反対活動に参加して30数年になりますが、2011年5月に旧浜岡町佐倉地区周辺で宣伝活動をしていたところ、あるお宅では庭に飛び出した親子が手を振っている光景を数か所で目にしました。それは他の所でも見受けられ、今日に至っていると思います。
 さて、原発は未完の技術と言われてきましたが、これは未熟を意味するものではなく、未完のまま命脈が尽きるということだけです。現に欧米のグローバル企業が「原発は時代遅れ」だとして撤退を開始し、過酷事故(シビアアクシデント)となれば計算不能の巨大コスト・巨大負担、損失を被ると断定しています。そして、そうした状況に至れば、世界市場と消費者は彼らを見放し、その責任を問い続けるというわけです。又、原発は「核施設」そのものであって、エネルギー産業とは言えないということです。この見識は当然というべきですが、果たして日本の企業ではどうなのでしょうか。まさか内閣府が発表した、高濃度の廃棄物処理について、400年間は電力会社が受け持ち、その後10万年は「国が責任を持つ」という笑い話にもならない方針を信じるというのでしょうか。この「廃棄物」というのは正確には「核物質」です。
 したがって、核物質であるプルトニュウムを45トンも保有する日本は核保有国に他ならないのです。原発から出る核のゴミなどではなく、原爆を作る材料でしかないのです。
 今年の7月27日に原子力規制委員会の臨時会が開かれ、そこに中部電力の社長が呼ばれたそうです。そこで規制委員会は「自然条件の厳しい所に立地する浜岡原発は地震と津波の両方にそなえなければならない。その両方に審査の重きを置くべき対象」と指摘したそうです。本当のところはどうだったのでしょうか。そしてその2日後、中部電力は9月末に予定していた4号機の安全対策工事について、期限を決めず延長を決定しました。
「原発をなくす会静岡」によれば既に中部電力は原発のすぐ隣に「活断層」があるという事実を認めたというのです。これは重大なことです。
東日本大震災から5年数ヶ月後の熊本地震、そして今度の鳥取地震と続きました。地震大国日
本であるという重い事実を目の当たりにした私たちは、迷うことなく、原発ゼロを目指すほかありません。
したがって、もう結論は出ているのではないでしょうか。中部電力にとっても原発は会社の存立を脅かす、時代遅れの代物であり、まさに「滅び行く恐竜」である(ある著名な物理学者の言葉)と言うべきでしょう。

11:24 裁判長:原告の陳述については、主張や証拠になるわけではない。そうするのであれば、別途準備書面として出してほしい。
 9次訴訟がなされたが、8次との併合でいいか。(原告も中電もそれでいい、国も裁判所の判断に従うとして返事をして)
 では、併合して進める。原告から準備書面(17)(18)が出ている。陳述の求めがあるのでよろしく。

11:26 阿部弁護士:(準備書面(17)の要旨を説明したが、以下、準備書面(17)を掲載する)。
 本準備書面は、前回口頭で述べた更新弁論の内容に大幅な補足を加えてまとめたものである。
1 福島第一原発の事故から5年以上が経過した。
 この間各地で提起されている原発の運転差止訴訟で大きな動きがあった。
 最初に大飯原発3、4号機の運転を差し止めた福井地裁の平成26年5月21日判決、次に高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた福井地裁平成27年4月14日決定があった。これらは樋口裁判官が中心となって出したものである。高浜3、4号機の仮処分決定については、仮処分異議で取り消されたが、今度は大津地裁で平成28年3月9日、同じ高浜原発3、4号機について新たに運転差し止めを命じる仮処分決定が出された。これは山本善彦裁判官が中心となった出したもので、樋口英明裁判官だけでなく、他にも原発に厳しい目を持つ裁判官がいたことであり、明らかに福島第一原発事故前の原発訴訟とは様相を異にしている。

2 科学技術論争はどうなったか。
(1)これらの住民勝訴の判決、決定においては、原発の危険性についてはどのように審理され、判断されたか。精密な科学論争の末決定が出されたわけではなく、極めて常識的な、素人が読んでも分かるような理屈で原告住民側の主張を認めている。
例えば、原発が予想される地震の地震動に耐えうる安全性をもっているか否かについて、元となる基準地震動の設定が電力側の主張どおりでよいのか、甘すぎるのではないのか、という論点がある。本件でも最大の争点の一つである。
 この点につき福井地裁の平成27年4月14日仮処分決定はどのように判断したか。
  「しかし、この理論上の数値計算の正当性、正確性について論じるより、現に、下記のとおり、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以降10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきは当然である。」
「しかし、いずれの原発においても、その時点において得ることができる限りの情報に基づき当時の最新の知見に基づく基準に従って地震動の想定がなされたはずであるにもかかわらず結論を誤ったものといえる。本件原発の地震想定が基本的には上記4つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づきなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず、債務者の本件原発の地震想定だけが信頼に値するという根拠は見いだせない。」
その根底にあったのは福島第一原発事故の被害を直視しこれと真摯に向き合うという姿勢であり、原発というものが、一つ間違うと取り返しのつかない被害を人類、地球に与えるものだという認識であり、いかに科学技術が進んでも、原発を完全にコントロールはできないという謙虚な姿勢である。
(2)最近、国が各県の統一モデルとして定めた日本海「最大クラス」の津波が過小評価されているとして前原子力規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏がこのままだと再び「想定外」の地震、津波の被害が発生すると警告を発している(甲B35、「科学」2016年7月号、653頁以下、甲B25、甲B26、甲B27、甲B29、甲B30、甲B31)。震源断層の面積から地震モーメントを求める式に入倉・三宅式という式があるが、この式によると垂直或いは垂直に近い断層の場合に3.5分の1程度に過小評価されるというのである。日本海西部の断層は垂直ないし垂直に近いので福井県に立地する原発では審査し直す必要がある。
この島崎氏の問題提起を受けて原子力規制委員会はいったんは再計算すると言ったものの結局、結局、やり直す必要はないと開き直っている(甲B28)。
(3)その後、政府の地震調査委員会が、原子力規制委員会が基準地震動算定に使用している計算式が地震の規模や揺れを小さく見積もる恐れがあり、地震調査委員会の委員は「規制委員会の判断は誤りだ」と批判していることが報じられている(甲B32)。以下、新聞記事を引用する。
「調査委は、地震の研究などを担う政府機関。断層の幅と長さから、地震の揺れを計算する方法を06年に公表し、規制委や電力会社が基準地震動の計算に採用している。だが、この方式には、断層の規模や、地震の規模であるマグニチュード(M)を小さめに算定し、揺れを過小評価する場合があるとの指摘が出た。このため、断層の長さなどから揺れを計算する新方式を09年に公表し、各地の地震の揺れを計算してきた。調査委作成の計算マニュアルでは両方式が併記されているが、調査委は現状を踏まえ、マニュアルを改定する検討を始めた。」
「これに対し、規制委事務局の原子力規制庁は、『06年方式は断層の詳細な調査を前提に使う方法。電力会社が詳細に調査しており、原発の審査では適切だ』と言う。」
「調査委の強震動評価部会の纐纈一起部会長(東京大地震研究所教授)は、『活断層が起こす揺れの予測計算に、地震調査委は09年の方式を使う。規制委が採用する方式の計算に必要な断層の幅は詳細調査でも分からないからだ。これはどの地震学者に聞いても同じで規制委の判断は誤りだ』と指摘する。」
(4)これらのことは、地震の科学の現状、地震動の評価の難しさ、基準地震動の設定の仕方の危うさを物語っている。
原告準備書面(13)において、基準地震動について入倉孝次郎氏が2014年3月29日の「愛媛新聞」に語った言葉を引用しておいたが、再度、引用しておく(甲B22)。
「基準地震動は計算で出た一番大きい揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。」「あくまで目安値。」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、これは地震の平均像
を求めるもの。平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。
基準地震動はできるだけ余裕を持って決めた方が安心だが、それは経営判断だ。」
この点に関しては、東京大学地震研究所の纐纈一起教授も地震動予測の誤差について次のように語っている(甲B33)。
「『震源を特定して策定する地震動』の計算で用いられている耐専式や強振動予測レシピ等については倍半分程度の誤差は不可避です。この『倍半分の誤差』については、地震学者の経験的、感覚的なものなので、文献にはあまり書いていないと思いますが」(ひとつ文献を紹介している)・・・・「『倍半分の誤差』については8~9割の地震学者の間では共有されている感覚だと思います。」
(4)(数字の間違いは原本のまま)地震については未だに未解明なことがたくさんある。
  例えば、2009年8月11日、駿河湾の地震が発生し、そのとき浜岡原発では同じ敷地なのに5号機が特別に強い地震動に襲われた。その結果、被告中部電力は、3、4号機は1200ガルに耐えられるように工事をしているのに対し5号機については2000ガルに耐えられるように工事をしているとのことである。5号機だけ強い地震動に襲われた原因は地下の低速度帯の存在によるレンズ効果だとされている。しかし、このようなことは駿河湾の地震が起こって初めて分かったことである。それがなければ5号機は3、4号機と同じ耐震基準で施工していたことは明白である。
2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震はマグニチュード(Mw)6.9の地震であったが、震源に最も近い観測ポイントで4022ガルという異常に大きな最大加速度を記録した。これは後に「トランポリン効果」によるものとされたが、それまでは誰もが予測できなかった事態であった。
東北地方太平洋沖地震も、あのような広範な震源域をもつマグニチュード9以上の大地震として起こるとは地震学者の誰もが予想し得なかった。それまで多くの地震学者が内陸直下型地震はともかくとして日本海溝沿いや南海トラフ沿いのプレート境界で発生する地震についてはある程度理解できていたと思っていた。世界の沈み込み帯では1956年のカムチャッカ地震、1960年チリ地震、1964年アラスカ地震などマグニチュード9を超える地震が発生していたのに、日本周辺の沈み込み帯ではマグニチュード9以上の地震が起きないと考えていたのである。その理由は、日本周辺の海洋プレートは古いプレートで陸側プレートとの固着が弱いので沈み込む際に地震を引き起こす領域が連動しないというドグマに支配されていたからである。
このようなことから考えて、地震や津波について、全て理解したと思うのは、極めて傲慢・不遜な態度であると考える。毎年毎年新たな知見が得られていると言っても過言でない。
(5)(数字の間違いは原本のまま)歴史を振り返れば、規制基準や安全基準などというものは、いつも事件や事故が起きてから後追いで改善されていく。なぜ最初から十分な安全余裕を持って設計しないのかと言うと、気が付かないこともあるし、気が付いてもそれをやるとコストが高くなるからやらないということもある。
しかし、問題は、原発もそれと同じでいいのかということである。
なるほど多くの科学技術は失敗に学んで進歩し、よりよいものへと改善されていく。最初から完全無欠の技術などない。その点は原発とて同じである。
いわゆる「第三世代+」と言われる最新の原子炉がある。1950年代に運転開始された原子炉を第1世代炉、1960年代半ばから1990年代半ばまで運転開始されたものを第2世代炉、1990年代半ばから2010年頃までに運転開始された原子炉を第3世代炉、その後運転開始されたものを第三世代+炉、2030年以降の運転開始をめざすものを第4世代炉と呼んでいる。浜岡原発の場合、3号機、4号機は第2世代、5号機は第3世代である。第3世代+には、東芝の子会社ウェスチングハウスの開発したAP1000、ヨーロッパで開発されたEPRなどがある。これらの最新原子炉は第三世代炉に比べて、耐震性が向上し、冷却系統の多重化、制御棒の多様化、耐腐食性の向上、蒸気発生器の高度化、受動的安全設備の導入(重力落下式の注水冷却)、自然循環による炉心冷却、シビアアクシデント対策の向上(コアキャッチャー、原子炉容器内保持システム(IVR)の設置)など、先進的な安全方策を導入していると言われる(甲A8、2頁以下)。第4世代炉はさらに安全性を向上させることになっている。
つまり、原子力発電は、まだまだ安全性を向上させる余地が大いにある技術だということである。最初から安全性が確立しているのであれば更に安全性を向上させる必要はない。
「福島原発で何が起こったか 政府事故調技術解説」(甲D6)という本がある。政府事故調のメンバーが書いたものである。政府事故調の委員長は「失敗学」を提唱する畑村洋太郎東京大学名誉教授である。その畑村氏の執筆した部分・160頁以下に次のような記述がある。
  「筆者らは、一つの産業分野が十分な失敗経験を積むには200年かかる、と考えるようになってきた。そこで、産業革命以降の産業の発達の基幹となる技術として、典型的なボイラーの発達の歴史を概観し、〝 一つの技術分野で十分な失敗経験が蓄積するには200年かかる〟 という仮説を立てた。
  ボイラーは18世紀に発明され、19世紀初めに実用技術として確立した。その後高圧化に伴い、度重なる多くの犠牲者を出す破裂事故を経験しながら、さまざまな安全基準を設けて安全性を高めてきた。そして、ボイラーに必要となる材料技術、溶接技術などのさまざまな技術の発達により、米国のASME(アメリカ機械学会)規格では1942年に安全基準を5から4に引き下げるに至った。その変遷を曲線で表してみる(仮にこれをSカーブと呼ぶ)と、これ以外の産業分野でも、鉄道、航空機、自動車などの技術発達はこの曲線に乗っているように見える。
  一方、原子力発電は1950年頃に原子力の発電への利用が始まって以来、現在(2012年)はまだ60年が経過したに過ぎない。こ間にこの分野で大事故と考えられているのは、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島の事故の3つである。これらの事故の直接的な原因はそれぞれ、スリーマイル島事故はヒューマンエラー、チェルノブイリ事故は原子炉が自己制御性を欠いていたという設計思想の誤り、福島原発事故は地震と津波という自然災害の対応不適と考えられる。
  これら原因による事故を経験したが、こうした要因のほかに今後大事故を引き起こすことが懸念される要因として、テロなどの人間の〝悪意〟による事故や〝偶然の重なり〟などがある。原子力発電技術が十分な失敗を経験し、基準や指針、過去の経験、既存の知見などに従っていれば安心であるという状態に至るには、上述の仮説に従えばあと140年が必要である。
  しかし、原子力分野が他分野で起こったことを十分に学習し、それを自分たちの技術の中に取り込めば、この200年を短縮することができるはずである。徹底的に他分野の経験を学び、それを取り込む努力をすれば、20~40年という時間で原子力発電の技術を十分に安心なものにすることができるのではないだろうか。」
つまり原子力発電はどんなに早くてもあと20~40年の真摯な努力がなければ十分安心できる技術にはならないだろうと言っているのである。これはその間のスリーマイル、チェルノブイリ、福島のような「失敗」を許容することを前提にしている。
しかし、原子力発電にかぎっては、失敗に学んで改善していくことを許してはならない。なぜなら一度失敗したら取り返しがつかなくなるからである。福島の二の舞を浜岡で起こせば日本は潰滅する。福島の失敗から学ぶべきことは、核分裂による巨大なエネルギーを利用する原子力発電所は現在の科学技術では制御できないということであり、このような失敗を二度と起こさないためには原子力発電所は廃炉にするしかないということである。

3 避難計画について
避難しなければならないような事態は発生しないと電力側は主張するかもしれないが、それは間違いである。
深層防護は、IAEA(国際原子力機関)の要求するものであり、国際スタンダードである。第1層から第5層まであり、その第5層はシビアアクシデントが発生した場合にでも施設外で住民が放射線に被曝することを防ぐことを要求している。IAEAでは、各層は他の層とは独立に自分のところだけで役割を果たすべきだとしている。1層から4層までで事故・被害発生は防げるから5層はいいかげんでもいいのだとは決して言っていない。避難計画はこの5層での問題である。我が国では、第5層は行政の責任とされ、新規制基準にも取り入れられておらず、原子力規制委員会は第5層については審査もしない。全く無責任というほかない。
静岡県でも2016年3月に広域避難計画がようやく策定されたが、それはとりあえず策定しただけという程度のものであり、複合災害で発生する鉄道、道路、橋などの破壊、水道、電気の途絶などを考慮に入れておらず、全く実効性のないものである。UPZ内(31キロ圏内)でも90万人以上の人口がある。加えてUPZ外でも放射能が飛散して退避せざるを得なくなる地域が出てくる。特に静岡市内から沼津方面にかけては風向き次第で、ちょうど福島第一原発事故での飯舘村がそうであったように、UPZ内と変わらない放射能を浴びる可能性がある。
そのようなことを考えると、そもそも実効性のある避難計画を立てるのは無理だと思われる。容易に立案できるのであれば静岡県でも早々に策定できているはずである。
法律でつくることになっているからとにかくつくったのだ、無理なことを要求するな、ないよりましだという考えなのかもしれない。しかし、このようなことでいいのか。
実は、新規制基準から立地審査指針が抜け落ちたのは、これを厳密に要求すると日本では原発を建設できる場所がなくってしまうからである。立地審査指針は、重大な事故が発生した場合でも周辺の公衆に放射線障害を与えないよう原子炉と住民の居住地を離しておくべきことを要求するものであるが、原子力安全委員会は重大事故の場合も放射線は原子炉施設の敷地内にとどまるという、実にいい加減な解釈のもとに、人口密集地域の日本に多数の原発の建設を許してきたのであった。ところが、福島第一原発事故でそのようないい加減な運用が白日の下に明らかになった。しかし、かといって立地審査指針を厳密に適用すれば人口密度の高い日本の国土で原発を建設できる場所はなくなってしまう。だから、新規制基準に立地審査指針を入れなかったのである。それならば日本に原発はつくるべきではないし、つくった原発は廃炉にしていくしかない。
高浜原発3、4号機の運転差し止めを認めた大津地裁仮処分決定(2016年3月9日)は、避難計画の立案について「地方公共団体個々によるよりは、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか、それ以上に、過酷事故を経た現時点においては、そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。
このような状況を踏まえるならば、債務者には、万一の事故発生時の責任はだれが負うのかを明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり、その点に不合理な点がないかを相当な根拠、資料に基づき主張及び立証する必要があるものと思料する。」
本訴訟において、避難計画は最大の論点のひとつである。

11:30 青柳弁護士:(準備書面(18)の要旨を説明したが、以下、準備書面(18)を掲載する)。
 本書面は、中部電力浜岡原子力発電所が抱える、当該発電所に関する避難計画が有する重大な問題点を、先の関西電力高浜原子力発電所差止事件決定を指摘したうえで、分析的に論じるものである。

第1 高浜発電所3号機及び同4号機の再稼働禁止仮処分と避難計画
 平成28年3月9日、大津地方裁判所民事部において、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1所在の関西電力が設置する原子力発電所の発電機の再稼働を禁ずる仮処分決定(以下本決定と呼ぶ。平成27年(ヨ)第6号事件)がなされた。この仮処分決定につき、大津地方裁判所は、避難計画についても仮処分を決定する理由の一つとして挙げている。以下に本決定から、避難計画に関する記述の部分を抜粋する。
 「本件各原発の近隣地方公共団体においては、地域防災計画を策定し、過酷事故が生じた場合の避難経路を定めたり、広域避難のあり方を検討しているところである。これらは、債務者の義務として直接に問われるべき義務ではないものの、福島第一原子力発電所事故を経験とした我が国民は、事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的広さとその避難に大きな混乱を生じたことを知悉している。安全確保対策としてその不安に応えるためにも、地方公共団体個々によるよりは、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか、それ以上に、過酷事故を経た現時点においては、そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。このような状況を踏まえるならば、債務者には、万一の事故発生時の責任は誰が負うのか明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり、その点に不合理な点がないかを相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思慮する。」(下線は原告ら代理人による。)
 いわゆる新規制基準には、避難計画に関する規制はない。しかしながら、司法は避難計画を含む安全確保対策を講じる必要を電力会社側に負わせ、仮処分において、その主張及び疎明がない限り再稼働を許さないという姿勢を明らかにした。
  これは当然、浜岡原発を初めとする全国の全ての原子力発電所に当てはまるものである。
 従前より主張しているが、アメリカ合衆国のショアハム原子力発電所は、避難計画の実行性が不十分であったため、廃炉の判断がなされた。
 新規制基準に避難計画の存在及びその実行性は考慮されないこととなっている。しかし過酷事故時の地域住民の保護の観点から、当然に再稼働の要件として要求される。
 本件においても、未だ被告より避難計画を含む安全確保対策を講じているという十分な立証がない以上、先の司法判断に従い、再稼働を認める余地はない。

第2 避難計画自体の不備
  現在、浜岡原発をはじめとした原発を有する各地で避難計画の策定およびこれに基づく避難訓練が実施されている。しかしながらあらゆる場面においてその脆弱性が露呈している。
1 速やかな避難が不可能であること
交通権学会によれば、土砂崩れや地割れ等により避難経路における道路機能が低下した場合、避難時間が大幅に増加することが試算されている。
  同学会によれば、浜岡原発の場合は、発電所から30キロメートル圏外に避難するためには通常時で20時間10分かかるところ、5パーセント低下すると1.5倍の31時間かかり、10パーセント低下すると3倍の60時間20分かかると試算された(福井新聞平成28年7月17日朝刊、甲H39号証)。
 これはあくまで10パーセントの道路機能の低下を想定した試算であり、10パーセントを超える道路機能の低下が発生すれば、避難時間は60時間を優に超えるどころか避難自体が不能になることが考えられる。
 しかしながら、平成28年3月に静岡県が策定した浜岡地域原子力災害広域避難計画(以下本件避難計画と呼ぶ。)では、これら道路機能の低下の検討はおろか、通常時の予想避難時間さえ記載されていない。
 この点においても、浜岡原発の避難計画は、検討が全く不足しており、欠陥があるものと言わざるをえない。

2 避難住民受け入れ先が未だ不透明であること
(1)静岡県内における受け入れ
  原子力災害が単独で発生した場合、避難市民の受け入れ先は、本件避難計画によれば主として静岡県内になる(甲H33号証、13頁)。
  しかしながら、受け入れ先の各市町は当然に受け入れの準備ができているわけではなく、対応に戸惑う市町も多い。
例えば静岡市では平成28年4月の時点で収容可能人数は算出できておらず、複数の市町で、その市町の住民生活に悪影響が発生することを懸念している(平成28年4月1日付中日新聞、甲H34号証等)
また、本避難計画によれば、自家用車で各住民が避難することになる(甲H33号証、20頁以下)。そうすると各受け入れ先はその避難市民のための大規模な駐車場も当然に用意しなければならない。
  以上の通り、受け入れ先自治体に大きな負担を強いるものであり、この大きな負担は、受け入れ先の住民は勿論のこと、避難住民にも跳ね返ってくるものである。そのような避難計画は受けいれられる余地はない。
(2)静岡県外における受け入れ
 本件避難計画によれば、大規模地震等複合災害が発生し、静岡県内への避難ができない場合、県外への避難となる。受け入れ先は東京都、埼玉県、群馬県、富山県、福井県及び石川県であるが、今日現在においても具体的な避難場所は明らかになっていない。静岡県外における避難においても、(1)で指摘した問題点があることは当然である。
  また、巨大地震とされる南海トラフ地震が発生した場合、太平洋側の各都府県をはじめ、各地で甚大な損害が発生する。その場合受け入れ先のはずである各都府県においても施設の破壊等が広範囲に発生する(太平洋に面していない福井県、長野県でさえ2000棟以上の建物倒壊が予想されている。)ため、避難市民を受け入れる余裕など無い。

第3「静岡県第4次地震被害想定報告書」との矛盾
1 県は、平成25年11月29日付で、静岡県第4次地震被害想定報告書(以下本件報告書と呼ぶ)を策定し、その中でレベル1の地震・津波(東海地震を想定、高頻度・損害大)とレベル2の地震・津波(南海トラフ巨大地震を想定、低頻度・損害甚大)を想定して、県下がどのような損害を受けるのか、多角的に分析をし、被害想定をしている(甲H40号証)。このうち、県下の交通網についても被害の想定がなされている。
本件報告書によれば「交通施設被害の概観」として、「道路施設(緊急輸送路)は、橋梁の落橋や富士地区、中部(沿岸部)地区で大きな地盤変位に伴う被害などが発生した場合には、緊急輸送が可能になるまで発災から1週間以上を要する可能性がある。レベル2の地震・津波の場合には津波浸水により不通となる区間が増加する。」とされている(甲H40号証、12頁)

2 本件報告書97頁以下より、各道路施設(緊急輸送路)に関して言及がされている。
本件報告書で各道路施設(緊急輸送路)について、①過去の被災事例を基に、通行支障を引き起こす要因を設定した上、②要因別に被害による「影響度ランク」を設定し、③要因別の影響度ランクを基に、被害想定を行っている。
例えば、被災事例として「橋梁の崩壊」は被害規模が大きいAAランクとしたうえで、当該道路施設に崩壊の可能性が高い昭和55年以前建造の橋梁が存在する場合は、その道路施設の影響度はAAランクと定められる。このランクはAA(影響度大)からA(影響度中)、B(影響度小)、C(影響度なし。但し緊急車両が通過する限度において。一般車両が通行する場合に支障がある場合を含む。)と定められている。

3 以下に各道路施設のランク付けを見ていくと、例えば、静岡市清水区の薩埵峠以西から富士市にかけて東名高速道路と国道1号線が、駿河湾に極めて近い位置に存在していることから同じくAAランクとされ、富士川沿岸全域が、橋梁を用いて東部に抜ける必要があるためAAランクとされている。
また国道150号線が津波による浸水を受けるためAランク、国道362号線が山間部を通過するため土砂崩れ等を原因にAAランク、静岡県中部において市街地から新東名高速道路へ連絡する道の殆どがAランクとされている(上記各道路を含む他の道路の詳細な被害、復旧までの予想時間は甲H40号証、111頁参照。)。

4 これを本件避難計画(甲H33号証)の17頁、18頁と照らし合わせると、多くの割合でAAまたはAランクの道路と避難経路が一致してしまう。
しかも、現に政府は南海トラフ地震に対する広域訓練として、道路寸断を想定して静岡空港を用いた医療物資の空輸を準備している(平成28年8月29日付中日新聞、甲H37号証)。
 本件報告書や広域訓練では道路寸断を想定しているにも拘らず、本件避難計画はその点から目をそらした内容となっているのである。

5 加えて避難経路の寸断の原因は地理的要因だけではない。本報告書では、地震による「交通人的被害」、つまり地震・津波を原因とする交通事故被害の発生も想定している。(甲H40号証、306頁)。
本報告書では、阪神大震災や東日本大震災の経験から、揺れに驚いたり、混乱した運転手による交通事故、停電等による交通施設の機能停止による交通事故の発生をも予想している。
  例え道路自体の崩壊がなくとも、これらの交通事故が原因で避難経路が寸断する可能性も高い。

第4 結語
 よって、本件避難計画は実行性が全くない上に、県が作成した被害想定と大きく矛盾した内容となっているのである。     

11:38 裁判長;出された証拠の確認。原告から映画の上映の希望があるが、予定していない。争点が固まってから必要があれば検討したい。被告中電から工事の進捗状況を報告してほしい。

11:42 被告・中電;安全向上対策工事について、7月以降のこと。4号機の安全性向上対策工事は9月末までに完了した。フィルタベントと緊急時対策では、一部配管サポート対策と内部火災対策工事は現在も進行中。適合審査を受けているが、新たな知見が出て来ることもある。工期の見直しもありうる。審査の終了時期頃に報告したい。3号機は4号機に引き続いて工事をやっていきたい。5号機は海水の流入に伴う配管の損傷がある。補修や取り換えの検討を行っているが、新規制基準に基づく適合審査の申請に向けて準備している。

11:45裁判長;(被告の書面提出や意見陳述を行ってはどうかなどのやり取りのあと)次回は、3月13日(月)11:00から、1号法廷でとする。書面提出は一週間前にお願いする。
                                      11:48終了

11:57 地域情報センターで報告集会
司会・高柳昌子;司会の高柳です。最初に弁護団からお願いします。
大橋弁護士;今日は9次訴訟の中村さんと桜井さんの陳述があった。中村先生にはお会いして懐かしかった。先生の話の通り、放射能が外に出れば大変なことになる。中電がCMを盛んに行っている。またいろんな会社の人が一人の裁判官によって電力会社の経営が左右されては困るというが、これらを許してはいけない。原告の陳述は重要なので、これからも訴えてほしい。原告が657人になった。
1000名をめざしていきましょう。

司会;代表の山本先生、お願いします。
12:02 山本;原告の意見陳述はよかった。裁判官の判断はけしからんという発言には憤りを感じる。逆に福島の事故を見ると、専門家が下した結論がでたらめだった。変えなくてはいけない。裁判は重要だ。岩波の科学という雑誌で、費用の問題を取り上げている。原発は安くはない。危険性の点でも原発は核施設だ。この観点は大事だ。核廃絶で日本は逆コースの時代に入っている。大いに頑張らなくてはと思う。

司会;今日陳述した阿部弁護士と青柳弁護士、お願いします。
12:07 阿部弁護士;前回口頭で述べたことに補足を加えて説明した。前原子力規制委員会委員長代理の地震学者の島崎邦彦氏が、日本海西部の断層は垂直ないし垂直に近いので、震源断層の面積から地震モーメントを求める式に入倉・三宅式という式があるが、この式によると過小評価される恐れがあるという問題提起をした。この島崎氏の発言は重い。この問題提起を受けて原子力規制委員会がいったんは再計算すると言ったものの、最終的にはやり直す必要はないと開き直った。
それから、もう一つ、政府の地震調査委員会が、原子力規制委員会が今も使っている基準地震動算定に使用している計算式が地震の規模や揺れを小さく見積もる恐れがあると指摘した。これも新聞で大きく報道された。基準地震動の式は数式がたくさん出てきて、我々は分からないが、確立した方法があるわけではなくて、人によって違ってくると。信用性がないと。東京大地震研究所の纐纈教授は「式には倍くらいの誤差がある。浜岡原発で基準地震動が800ガルと言っても、その2倍くらい信用できないと」そういう話だ。
原発の安全性について、政府事故調の委員長の畑村洋太郎東京大学名誉教授の考えを引用した。畑村先生は「失敗学」を提唱している。「技術は改良の積み重ねだ。ボイラーの技術で十分な失敗経験を積むには200年かかると。一方、原子力発電は原子力の発電への利用が始まって以来、まだ60年が経過したに過ぎない。徹底的に他分野の経験を学び、それを取り込む努力をすれば、20~40年という時間で原子力発電の技術を十分に安心なものにすることができるのではないだろうか。」と。つまり原子力発電はどんなに早くてもあと20~40年の真摯な努力がなければ十分安心できる技術にはならないだろうと言っているのである。

12:12 青柳弁護士:一つ目として新たに付け加えた点は、高浜原発3号機及び同4号機の再稼働禁止仮処分決定について述べた。新規制基準には避難計画に関する規制はない。避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき義務が国家にはあるという点を指摘したことが大きな点だ。
これを浜岡原発に当てはめるとどうなるか。未だ被告より避難計画を含む安全確保対策を講じているという十分な立証がないので、再稼働を認める余地はない。
二点目は、避難計画そのものについての不備を取り上げた。
一つは、速やかな避難が不可能であること。交通権学会によれば、地震で土砂崩れや通行止めになって、避難時間が大幅に増加することが試算されている。この点を主張した。
二つ目は、避難住民受け入れ先が未だ不透明であること。原子力災害が単独で発生した場合、県内市町村に避難することになっているが、受け入れ先の各市町は受け入れの準備をしなくてはいけないが、それどころではない。また、本避難計画によれば、自家用車で各住民が避難することになっている。そうすると各受け入れ先はその避難市民のための大規模な駐車場も当然に用意しなければならないが、そういう避難計画にはなっていない。大規模地震等複合災害が発生した場合、県外への避難となる。巨大地震とされる南海トラフ地震が発生した場合、太平洋側の各都府県をはじめ、各地で甚大な損害が発生する。その場合受け入れ先のはずである各都府県においても施設の破壊等が広範囲に発生する。太平洋に面していない福井県、長野県でさえ相当の建物倒壊が予想されている。避難市民を受け入れる余裕など無い。
三つ目は、県は静岡県第4次地震被害想定報告書を策定し、その中でレベル1の地震・津波(東海地震を想定、高頻度・損害大)とレベル2の地震・津波(南海トラフ巨大地震を想定、低頻度・損害甚大)を想定して、県下がどのような損害を受けるのか、多角的に分析をし、被害想定をしている。 
また、県下の交通網についても被害の想定がなされている。本件報告書によれば4段階のランク付けがされて、これを本件避難計画と照らし合わせると、多くの割合で危険性のあるAAまたはAランクの道路と避難経路が一致してしまう。本件報告書や広域訓練では道路寸断を想定しているにも拘らず、本件避難計画はその点から目をそらした内容となっている。よって、本件避難計画は実行性が全くない上に、県が作成した被害想定と大きく矛盾した内容となっているのである。     

司会;意見陳述した中村さんと桜井さんにお願いします。
12:19 中村さん;原子力の被害は一過性ではない。失敗したら、改善する余地はない。突然変異が起きると、永久に人類に残る。突然変異を起こすと、それがいつまでも遺伝する。やり直しがきかない。そこが恐ろしい。絶滅危惧種がある。遺伝子の交配の範囲が狭くなって子孫が続かなくなる。放射線での突然変異が起きると、その広がりは恐ろしい。
12:31 桜井さん;インドの首相と安倍首相が原子力協定を結んだと、とんでもないことで、許せない。核の平和利用は絶対にありえない。浜岡原発に恐怖心をもっている。これからも活動をしていきたい。
中村さん;ショウジョウバエの標本の話。

司会;では、みなさんから感想か意見を。
質問;県と避難計画で交渉をしている。避難計画で避難先の準備を言っているが、避難先の安全確保をしてほしいと。浜松市が避難先であっても、安全とは言えない。その点を県交渉で言ってほしい。裁判とは少しなじまないが。
12:35 塩沢弁護士;阿部弁護士に質問。今回の準備書面(17)にまったく関与していないが、畑村さんの「失敗学」。鉄道、航空機、自動車などの事故を学ぶ中で、安全性が高まると。原発はまだ60年だからまだまだ安全に時間がかかる。これは分かる。ただこれまで三つしか原発事故はないので、これから先、自動車事故や航空機事故のようないろんな事故があって、安全性が高まるというのは、これはどうか。二度と原発事故はあってはいけない。この先生は「他分野で起こったことを学び、それを取り込む努力をすれば」と言っている。「原発事故ではなく、他分野の事故を取り込む」と言っている。阿部先生は、「これはその間のチェルノブイリのような『失敗』を許容することを前提にしている」と言っている。ここがちょっと気になる。この点はどうか。

阿部弁護士;原発事故は、スリーマイルやチェルノブイリ巨大事故だけでなく、小さな事故もある。いろんな事故をすべて取り込んでと思うので。巨大事故が起きることを容認しているわけではない。もっと起こればそれも当然学んでということだと私は理解した。

塩沢弁護士;ただ面白い。事故調の方々は少なくとも向こう30年は原発再稼働してはいけないと。我々のように永久に再稼働はダメだと言うのとは違うが、30年間では、我々とは一致している。

司会;それでは全国の裁判のことを北村弁護士からお願いします。
12:39 北村弁護士;全国の様子。動いている原発を止めるのが仮処分。短い期間で半年か一年での判断。動いている原発でも止める。我々は本訴をやっている。勝っても控訴されるということがある。一方で、仮処分を原発で使うのはとんでもないという関西電力の元会長の発言もある。いま伊方原発が動き始めたということで、集中的に仮処分裁判をやっている。対岸の広島、対岸の大分でも。広島で早くて来月12月に出るかもしれない。大分と松山で来年の3月に出るかもしれない。大津で今年の3月に仮処分が出て喜んだが、抗告で高裁に行っている。高裁では厳しいが、早く判決をと運動している。
私のところで、40年を超えた原発の稼働はとんでもないと裁判を起こし、私が団長で裁判を起こした。高浜原発3号機の再稼働の動きがあり、昨日、私も参加したが琵琶湖集会を開いた。危機感を募らせ、3時間の集会だった。いっぱいの人たちの参加だった。
美浜原発のある浜は美しい浜。ヨウ素剤を市町村は配らないと。おかしいと思った人が調査をしたら「どこにもらいに行ったらいいか」と聞いたら「分からない」と。美浜原発の稼働をどう思うかと聞くと、30%は「分からない」と。止めた方がいいは30%。地元でこうだとはとびっくりした。

質問;裁判では原発からの距離は?
北村弁護士;管首相の時、250km圏内では避難しなくてはいけないと。大飯原発裁判では250km県内の人を原告としては対象とした。我々の裁判では250km以上の人もいるが、これは理屈ではない。
司会;時間の関係もあり、これで終わります。

12:50終了(文責;長坂)


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浜岡原発永久停止裁判 第19回口頭弁論
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